2020/06/17インタビュー
【インタビュー記事】ウィーン国立バレエ団ピアニスト滝澤 志野
【インタビュー記事】ウィーン国立バレエ団ピアニスト滝澤 志野

今回のインタビューはスペイン国立ダンスカンパニーで活躍されている大谷遥陽さんからのバトンを受け取った、ウィーン国立バレエ団ピアニスト 滝澤 志野さん。日々ダンサーと過ごしているからこそ感じること、ダンサーにとってもヒントがたくさん詰まっているインタビューとなっています。

人生を捧げて学びたいのは音楽しかない

UNBLANCHE:ピアノとの出会いを教えてください

SHINO:両親がクリスチャンで、私が生まれる前から教会に通っていました。赤ちゃんの時、毎週の礼拝で、まだ歩けもしないのにオルガニストのところにハイハイして行き、その場から離れなかった様子を見て、母が私にピアノを習わせました。

UNBLANCHE:ピアノと真剣に向き合うきっかけになった出来事はありますか?

SHINO:中学受験で進学校に入学した時、音楽の道を一度諦めています。でも、大学受験で進路を選ぶ段階になった時、私が人生を捧げて学びたいのは音楽しかない、と。この時点でピアニストになることを決意しました。

UNBLANCHE:誰に褒められるのが一番嬉しかったですか?

SHINO:やはり母でしょうか。指揮者になりたかった母は、昔から今に至るまで、いつも私のピアノを認めて喜んでくれている気がして、心強いです。

拍手、身体を通して音楽を奏でる、信頼関係

HARUHI:1番ピアニストとして嬉しい瞬間とは。私は踊りおわった時のお客様の拍手にはかなり喜びを感じます!

SHINO:音楽家としての喜びは、自我から少し離れたところ=天から音楽が降ってきて、私の身体を通して音楽を奏でているような感覚に陥った時、とてつもない幸せを感じます。
バレエピアニストとしては、毎日ダンサーと稽古して、辛さを乗り越えて本番で最高のパフォーマンスができた時、そしてそんな時間の積み重ねで、ダンサーとの信頼関係が生まれたと感じられることが大きな喜びです。

ダンサーの音楽性が乗りうつる感覚

HARUHI:実はピアニストにとって弾きやすいダンサーなどはいるのか。私達ダンサーからしたら、踊りやすいピアニストはいるので、気になりました。

SHINO:音に吸いつくように踊る方はいますよね。音楽をよく聞いて味わって踊ってくれる人。音を聴く耳もそうですが、音に寄り添う心も大きいかなと思います。調和しあえる人。あと、逆に意志がハッキリしていて引っ張ってくれるDIVAのようなタイプのダンサーも魅力的です。その方の音楽性が私に乗りうつるように思うこともあります。

妥協ではなく歩み寄り

HARUHI:実はピアニストがダンサーに求めたいことなどはあるのか。私はダンサー達がピアニストに対し、早すぎる、遅すぎる、もっとダンサーを見て弾いてほしいと言う場面をよく見ます。実際私はダンサーもピアノに合わせるべきだと思いますが..だからこそ逆にピアニストからダンサーに求めたいこともあったりするのかと。

SHINO:これは歩み寄りですかね。ダンサーの「そんなテンポでは踊れない」という気持ちはよく分かる。バレエ公演もクラスも演奏会ではないので基本的にはダンサーに合わせるべきです。でも、ダンサーが求めるテンポに全て合わせてしまうと、音楽が成り立たないこともあります(楽器によってはそのテンポでは演奏できなかったりも)。なので、踊りも音楽もどちらも破綻せずに、それでいて最高の芸術に高める為には、妥協ではなく歩み寄り、意見を交わしていく必要があると思っています。お互い歩み寄る気持ちがあればうまくいきます。あと、私達も(指揮者も)機械ではないので、毎回全く同じテンポではできないこと、本番後にあまり責めないで頂けると嬉しいです。眠れないので(笑)

HARUHI:クラスであんなに長い時間、皆の為に弾き続け、疲労などはこないのか?例えば私達ダンサーはセンターで順番にアンシェヌマンするため間に休むことが出来ますが、ピアニストは1人ですし休めないですよね?だから気になりました。

SHINO:大人数のセンターで、グランワルツが延々と続きそうな時は、そろそろ止まろうよ〜と思うことも。お優しい心配りありがとうございます(笑)あと、疲労といえば、ずっとダンサーの方を向いて弾いているので、首が痛い、という職業病があります(笑)

ダンサーの調子さえも計算して弾く

HARUHI:バレエを弾くピアニストと他のピアニストに違いはあるのか。私のいるスペインでピアニストの方に出会った際、バレエを弾くのは難しいとおっしゃっていて、そんなに違いがあるのか!とびっくりしました。

SHINO:バレエピアニストはバレエを理解していないといけないので、完全に職人芸です。パを理解することはもちろん、ダンサーの筋肉の使い方、なんなら日々の調子さえもを計算して弾くテンポを変えるなど、相当熟練して知識と経験を積まないと、高レベルの現場では難しいと思います。私も20年以上弾いているのですが、ここ3年くらいでようやく自信がついてきました。

UNBLANCHE:バレエの世界では、外国人と日本人を比べるとまだまだ身体のコンプレックスを抱えているダンサーが多いですが、ピアノの世界にも「日本人」と「外国人」の違いなどありますか?

SHINO:私が感じるのが、表現の幅でしょうか。日本人音楽家はテクニックや基礎的なことに優れている反面、世界観が小さかったりダイナミズムや色合いに欠けるなどと言われるのは、バレエに共通するものがある気がします。ウィーンに来たばかりの頃、同僚のロシア人ピアニストに「とても上手く弾けているけど、チャイコフスキーはそんなものじゃない。ロシアの土地はもっと広大なんだ」とアドバイスしてもらえたことが忘れられず、今も心に留めて演奏しています。心を伝える、表現力豊かな芸術家になりたいですね。

色や光から受けるインスピレーション

HARUHI:SHINOさんがインスピレーションを受けるものとは。特にいまこの難しい時期に影響されるものなど気になります。

SHINO:私は色や光から受けるインスピレーションが大きい気がします。絵画もそうだし、一枚の写真からストーリーや音楽が聴こえてきたり。また、自分が心動かされる風景に出逢いたいから、旅に出かけるのが好きなのだと思います(ちなみにスペインに恋しています)。それから、素晴らしい芸術家の心、魂のようなものに触れたと感じられる時、自身の人間性、芸術性を高めてもらえている気がします。

難局であればあるほど

HARUHI:今まで1番弾くのが難しいと思われたバレエの作品は?もちろんリハも含めて。
ダンサーにとってこれは私にとって難しい!と思うものはたくさんあると思います。だからこそあんなに素敵な曲をなんでも弾けちゃうSHINOさんにききたいです。

SHINO:弾いてきたなかではヌレエフ作品が一番大変でした。作曲家が意図した音楽(特にテンポ)と彼の振付が必ずしも一致していなくて、ヌレエフの舞踊言語を音楽に落とし込む作業、それをダンサーと共に乗り越えていくのが大変でした。ダンサーにとっても彼の振付は一筋縄ではいかないので、緻密に打ち合わせしていかないといけない。本番で大変だったのは、ノイマイヤー振付「椿姫」の黒のパドドゥ。ガラで一度きりの上演だったのですが、ゲストダンサーが到着されたのが当日の朝で、リハーサルは稽古場で軽く合わせたのみ、本番はピアノ用のライトが点かず、手暗がりで弾いた思い出があります(笑)でも、難局であればあるほど、それは音楽家としての糧になっていってるのでは、と思うので、挑戦は大事ですね。

Shino To Haruhi

Haruhiさんが純粋に、そして情熱的にバレエを追求しておられる姿に、いつも胸打たれています。ご自宅でのレッスンで私の音楽と共に踊って頂き、そしてこの度は、こんな素敵な機会を頂き、ありがとうございました。いつかどこかでご一緒できることを、そして時間を忘れて語り合えることを心から楽しみにしています。

THE FUTURE STARTS TODAY, NOT TOMORROW

UNBLANCHEでは、あなたのバレエが好きな気持ちを応援します。自分にどんな学校が合うのか、どんなバレエ団があるのか。
バレエを通じてどんなキャリアを作っていくのか、今はまだわからないことがたくさんあると思いますが、一人ひとりに合ったバレエ人生をサポートします。

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